僕はただの折りたたみ自転車ファンなんだ。ユーロバイク2025から

展示会に出展する第一の目的は、もちろんirukaとして新たなビジネスの機会を開拓することだが、合間を縫って他のブランドのブースを見学したり、ときには他のブランドの「中の人」たちと交流することも大きな楽しみのひとつだ。ユーロバイクは、日本では未発売のブランドも数多く出展しているからなおさらだ。ということで、ユーロバイクで見た、日本未発売の折りたたみ自転車たちを紹介しよう。
まずはオーストリア発のVello bike。日本のTyrell FXと同じく、後輪をBB後ろで、前輪をクラウン上で縦に三つ折りにする折りたたみ構造。ハンドルは90°回転した上で左右グリップ部を引き抜いて折りたたむ。
フランクフルトでもちょくちょく見かけ、今やヨーロッパではBromptonに次ぐ人気ブランドという印象だ。取り扱っている販売店も多い。日本でもいくつかの代理店が輸入を試みていると耳にするが、まだディールには至っていないようだ。チタンモデルや伊Zehus社製バッテリー一体型モーターを組み込んだ電動モデルもあるが、一番人気は1,690ユーロのクロモリモデルとのこと。
続いてベルギー発のAhooga。Bromptonと同じく、後輪をBB後ろで縦に、前輪をヘッドチューブ付近で横に三つ折りにする折りたたみ構造。トップチューブは一本だがダウンチューブは二本あり、その間に後輪を格納するのはirukaにも通じるアイデアである。
大口径アルミフレーム+グラベル仕様タイヤで非電動モデルでも重量14kg超と重めだが、その分タフさを売りにしている。現に、上の動画に映っているセールスのStuartはAhoogaでルワンダの半分近くが未舗装路の1,000kmのルートを走破するレースに挑戦し、途中で棄権したものの折りたたみ車で第二チェックポイントに到達した初めてのライダーになったとのこと。電動モデルと非電動モデルが同じフレームで、非電動モデル購入者は後から電動にアップグレードできる。非電動モデルが1,699ユーロ、電動モデルは3,499ユーロ。
フランス発のBastille。27.5インチホイール+ダイヤモンドフレームで一見まったく折りたたみ車には見えないが、以下の動画をご覧のとおり。
昨年のユーロバイクでは量産開始前だったが、今年は発売に漕ぎ着けていた。Congrats! ただこれだけ精妙で新しい折りたたみ機構だと、同じ折りたたみ車メーカーの経営者としてはフレーム製造の歩留まりが気になるところ。アジアで作ったフレーム部材をフランス国内で組み立てることで品質を確保しているとのことだったが、いかに。創業者のGillesは仏では有名な工業デザイナーとのことで、ギミックはいずれも美しく革新的。2,590ユーロ。
韓国発、建築家・アーティストのIl Hoon Rohがデザインのみならずチタン製トラスフレームの溶接まで自ら手掛けている分割・折りたたみ車のMikalon。昨年は試作の展示だったが、今年はついに受注を開始したとのこと。同じアジア人としてうれしく、誇らしい。
販売価格は日本円で200万近くと誰もが気軽に手にできる自転車ではないが、外観の美しさだけでなくハンドル高自動復元機構やワンタッチケーブル分割機構といったギミックの数々が所有欲をそそる。機構の詳細は公式ウェブサイトに詳しい。
Dahonが新製品として展示していたDabromにも触れておかざるをえない。Dahonは以前からCurlという、Bromptonの折りたたみ機構を採用したモデルを販売していたが、このDabromはほぼ完全なコピーモデルだ。外装7速、トップチューブ剛性強化ケーブル搭載、ハンドルは高さ+角度調整可能であるなど本家との違いも打ち出してはいるが、なにせ名前からして「Da」honの「Brom」ptonである。
BromptonのC-LINEより1-2割安くして年内発売予定とのことで、Dahonの自転車を買ったことで折りたたみ自転車の世界に足を踏み入れた僕としては、個人的には矜持のないやり方と感じて残念だが、はたして売れ行きはどうなるのか、メーカー経営者の立場としては興味深くはある。
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さて、こうやって振り返ってみると、僕はまるでおもちゃ屋に連れて来られた子供のように、ユーロバイクを存分に楽しんでいたのだと気づく。結局のところ、僕は折りたたみ自転車メーカー経営者である前に一人の折りたたみ自転車ファンなのだ。
小林正樹
株式会社イルカ 創業者/代表取締役